表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/144

第3章 その4 四日目のささやかなケンカ?


           4


 クイブロとカルナックの旅は、二日目、三日目は、初日と同様に、事も無く過ぎた。


 そして四日目。

 歩き続けていた二人は、昼頃に、ひらけた高原に着いた。


 そこかしこに、石を積み上げて作ったオルノ(かまど)が残っている。

 その数は十数個にも及んでいた。

 ただし、しばらく使われていない様子で、土台の石組みを覆った土は、ところどころ剥げ落ちているものも多い。


「ここは? オルノがいっぱいあるよ?」

 不思議そうにカルナックはあたりを見渡し、クイブロに尋ねる。


「四年に一度『輝く雪の祭り』がある。そのときは、おれたちの村ばかりじゃなくて、他の土地からも人が大勢ここに集まって、踊ったり歌ったり、飲んだり食べたりして賑やかになる。ここのオルノは、祭りのときには、また手入れをして使うんだ。家にあったものより大きいだろ」


「そうだね。おれたちの作ったオルノの倍くらいある」


 カルナックは、ここまで登ってくる間に、二人で煮炊きのために組み上げたオルノのことを思い出す。

 すると心が温かくなる。


「また、一緒に作ろう」

 クイブロは笑う。



 クイブロはオルノの一つに近寄り、開口部近くの土面を指さした。

「これが家族の目印になる。一個一個、違う印をつけてあるからな」

 入り口近くの土は火で焼けるので固くなっている。その表面に、丸や四角、鳥の羽のような文様が、それぞれ彫りつけてあった。


「来年には、『輝く雪の祭り』がある。村中総出で、またここに来て、家族ごとに集まって、みんなで騒ぐんだ」


「そうなの。いいな」


「ルナも一緒に来るんだぞ」


「いいの?」

 カルナックは、少しだけためらった後、クイブロに抱きついた。


「あたりまえだ。ルナは、おれの嫁なんだから」

 ウサギよりも軽いカルナックを高く差し上げて、クイブロは、その目に見入った。


水精石アクアラみたいな目の色だな」

 まじまじと見つめて、呟いた。


「最初に会ったときも、そう言ったね」

 カルナックは、くすっと小さく笑う。


「うん。おれは、そのときから一目惚れだからな」

 再び、腕の中に抱き寄せる。

「どこへも行くな。もうじき、雪の峰に着く。ふたりで登ろう。銀竜に会おう」


「どうしたの? おれはどこへも行かないよ。クイブロとずっと一緒にいる。伴侶って、そういうのだろ?」


「そうだけど。ときどきすげえ不安になるんだ。おまえが、あんまり可愛いから」


「そんなこと言うのきっとクイブロだけだよ」

 カルナックは、相変わらず、きょとんとしている。

 自分のことを可愛いとか言われても、わからないのだ。


「おまえは自分を知らなすぎるんだよ……」

 クイブロはため息をついた。


「祭りは来年の春先なんだ。それで、夏には投石戦争もある」


「とうせきせんそう?」

 カルナックは、初めて聞いた言葉に、首を傾げた。


「おれたちの村から選ばれた戦士達が、二手に分かれて投石の技を競い合うんだ。大地の女神様に捧げる、戦いの祭りだよ。これも、四年に一度。『輝く雪の祭り』と、同じ年に行われるんだ」


「へええ。戦士に選ばれるって、すごいことなんだよね? じゃあカントゥータ姉さんも出るよね?」


「うん。姉ちゃんは、もちろんだけど、おれも、それに参加した後は、一人前って認められるから。だから。……その後は、おれと……その」

 口ごもる、クイブロ。


「?」


「本当の伴侶に、なってくれないか」


「え? 本当って? 今も、ちゃんと婚姻の契約を交わした伴侶だよ?」


「そ、そういう……ええとな。その頃にはおれも、もっと大きくなってるし。大人の仲間入りだって認められて。嫁も正式に……もらえるようになるんだ」


 クイブロの顔は真っ赤になっている。


 しかしカルナックは、その言葉を全く違うふうに解釈してしまった。

「じゃあ、おれは違うの?」


「え? そんなこと言ってないぞ」


「クイブロは、一人前の大人になったら、他に、正式な嫁をもらうつもりなの?」

 クイブロの胸をドンっと強く叩いて押し返し、腕をすり抜ける。

 ウサギのように逃げていってしまう。


「違うんだ! そうじゃなくて!」

 言いたいことがうまく伝わらない。クイブロは焦って、カルナックを追いかけた。

「なんでこうなるんだよ!」


 さっきまでは、いい感じだったのに。

 言葉を選び間違えた。

 正式な嫁というのは。

 きっと自分に、やましい気持ちがあったのがいけなかった。

 ルナはずっと側にいてくれたのに。

 もっと間近で、肌に触れたいなんて……。


「ルナ! ルナ! 待てよ!」


 カルナックは体力がもたない。

 しばらく逃げ続けた後、疲れて地面にぺたりと座り込んでしまったところに、クイブロはようやく追いついた。


「きらいだ! おれじゃない嫁がいいんだろ。正式な嫁が。もっと……伴侶らしいことをしてくれる、普通の女の子が」


「そんなこと言ってねえよ」


「おれには、なにもできない。身体は弱いし、キスもいやがるし、それに……あんなこと、したくないんだ。ガルデルがおれにしていたみたいな」


「もう言うな。おれが悪かった。ただ、そばにいてくれたら。それだけでいい。一生、ずっと一緒にいよう」

 クイブロはカルナックを、そっと抱き寄せた。

 こわれものに触れるように、注意深く。


「おれは銀竜に会って、すげえ加護をもらうから!」


「……うん」


「おまえも、どこへも行くな」


「へんなこと聞く。おれに、どこへ行けるって?」


「どこへでも。おまえなら」


「そんなことない。……けど、おまえと……だったら」

 あとは言わなかった。



 

「何をやってるんだ、我が愚弟は」


「青春なんだろうさ……あいつ、キスは禁止と言ったのに」


「なんか、すみません愚弟が」


 岩陰から見守るカントゥータとコマラパであった。

 ほとんど不眠不休である。


「ところでコマラパ殿。もうじき、雪の領域だ」

 カントゥータは、話題を変えた。


「そこから先へは、我々は入れない」


「うむ? どうしてだ。わたしは何も知らないので、教えてくれるか?」


「雪が積もっているところは、銀竜の領域だ。そこへ入っていけるのは、資格を持ったものだけだ。たとえば『輝く雪の祭り』の『神がかりの七人』、そして村長。今回は、成人の儀に赴く者のみ」


「カルナックは?」


「クイブロの嫁だから入れるはずだ。だが、我らが雪の領域に踏み込めば成人の儀を台無しにする」


「そういうことなら、しかたがないな。二人が山を下りてくるまで、ここで待つか」


「ここらに近づく魔獣でも狩りながら」


 コマラパとカントゥータは顔を見合わせ、笑い合った。


「せめて今夜までは、見守っていてやりたい……」

 親心であった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もしよかったら見てみてください
このお話の四年後、クイブロ視点の男主人公一人称です。

リトルホークと黒の魔法使いカルナックの冒険

4章からカルナックも登場しています。
転生幼女アイリスは世界が滅びる夢を見る。~前世は人類管理AIで女子高校生でキャリアウーマン
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ