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第2章 その14 静かな幽霊


「こんなところまでいらしたのは、どなた?」


 コマラパとクイブロは、息を呑んだ。

 月の光を背に、カルナックにそっくりな、大人の美貌の女性が立っていた。



              14


 コマラパとクイブロは固まった。


 カルナック以外の人物には、彼らを知覚することはできないはずだったのに。

 この背の高い黒髪の美女には、はっきりと見えているようだ。


 くすっ。


 艶然と美女は笑う。

 その微笑みは、魂を抜かれるように美しく。

 そして、闇の魔女カオリに、生き写しだった。


「わたしはレニウス・レギオンを生んだ母親よ。誰かがここを訪れてくることは知っていたわ。どこの誰が、どのようにとは、わからなかったけど。何年も前から占いに出ていたんですもの」


「魔女……」

 コマラパは呟いた。


 カルナックが以前に話してくれたことがあった。母親は魔女だったと。占いをし、天候を操った。それでガルデルに召し上げられたと。


「しかし…妙だな、あなたとは初対面のはずだが、それに、ここはレニの記憶の中。こうやって会話ができるのはなぜだ?」


「わたしが魔女だから」


「便利な言葉だな。……いったい、あなたは何者なのだ」


「そんなことよりも」

 美女が、前に進み出る。


「あなたたち、レニを助けにきたんでしょう。今夜、これから殺される運命に在るレニウス・レギオンを」

 小首を傾げる、黒髪の美女。

 意図していなくとも、その仕草は蠱惑的ですらある。


「そうだ。レニは今どこにいるのか教えてほしい」

 コマラパは身を引き締めて、尋ねた。


「その前に、少しだけ、わたしの話相手になって」


 女が差し伸べた細く白い手は、コマラパの頬に触れた。

 触れられはしないはず。

 けれども、ひやりとした感触が伝わった。


 女は彼の顎髭を撫で、耳元に、柔らかそうな唇を寄せて、囁く。


「すてきな、おひげ。あなたは、わたしの好きな人にそっくり。もう少し若ければね」


「ガルデルに?」


「まさか」

 女は高笑いをする。


「ガルデルは、女はダメなの。たくさんいる正妻や愛人が生んだ子どもたちも、みんな、相手は別の男よ。ガルデルは、黙認してるけど」


「なに? ではレニウス・レギオンの父親は」

 コマラパは驚いた。

 ガルデルがレニウスの実の父だと信じていたからだ。


「そうよ、父親はガルデルじゃないわ。レニは、わたしの連れ子よ。わたしには、ガルデルに連れてこられる前に、愛していた男性がいたの」


「レニウス・レギオンはガルデルの実子ではないというのか!?」


「もちろん」

 美女は、コマラパにしなだれかかった。

 ここはカルナックの悪夢の中。現実ではない接触だとわかっていても、女性との交際がほぼ皆無のまま生きてきたコマラパは、大いに戸惑っていた。


「ガルデルの子だと認められていた者は何人も居た。でも、この館では誰もが知っている暗黙の了解だった。ガルデルに実子なんていないということはね」

 いまいましそうに美女は心情を吐露する。


「レニは、わたしが我が身可愛さにあの子を売ったと思っているの。ガルデルがそう言い聞かせているのよ」


 女は、纏っていたローブの前をはだけた。

 胸から腹にかけて大きな傷があるのが、目に付いた。


「正妻も、大勢居る側女もそう。みんなどこかしらを斬り刻まれている。脅して、服従させて。囲った女達に恋愛は自由にさせておいて男児が生まれれば差し出させるの。でも、レニより長く生き延びた子は、いない」


「なぜ、レニウス・レギオンに真実を言わなかった?」


「それは無理だったの」

 女は、目を伏せて。


「だって、わたしは幽霊だもの」



    

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