第1章 その26 それは禁止事項です
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天空から放たれた雷は、セラニスとカルナックが対峙している場所から少し離れた、高原の一画に落ちた。
落雷の瞬間、凄まじい大音響が轟いた。
音や光といった言葉ではとうてい言い表せない。
それは衝撃だった。
大音響と眩い閃光に、耳と目がやられる。
ごう音は音としてではなく空気の振動で感じられた。それと共に地面が激しく揺れているのが伝わってきた。
再び静けさを取り戻すには、しばらくの時間を必要とした。
「耳がおかしくなりそうだわ。乱暴ね」
カルナックは憤慨した。
だが、一応は公正な見方をしなくてはと思い直す。
そこらへんは前世での父親、泰三譲りの優柔不断さが見え隠れした。
「ま、デモンストレーションとしては、まずまず効果的と言っていい。能力を認めさせるには実力行使。威力を見せつけるというわけね」
不本意ながら、と前置きして、
「なかなかやるわね」と認めた。
『お褒めにあずかり光栄です、というべきかな?』
満足そうなセラニスの周囲を、相変わらず忠実な武器にして情報収集装置『魔天の瞳』たちは、ぐるぐると回っている。
「でも、美しくはないわね。力業?」
カルナックは相変わらず辛辣だ。
「機械だから微調整は不得手なのかしら?」
『う、うるさいな。今のは適当にやっただけだよ。その気になれば、雷も、それだけじゃなくて『天の火』と人間達が呼んでいる高密度のレーザー照射だって、ピンポイントで、できるんだから』
「神様気取りってわけね。ただの科学技術なのに」
『まあそうだけど。そいつは、ぼくのせいじゃないよ』
言い訳するようにセラにスは続ける。
『人間達は科学を恐れてる。だから文明レベルも退化している。こんな事ぐらいで、人智を越えた力だと言う。ぼくも誤解を解くのも面倒だし黙っているけれどね』
「まったく嘆かわしいこと。あなたが現在の人間たちに失望するのもわかるわ」
カルナックは、そこだけは同意した。
「さて、次は私の番ね」
「待て」
立ち会っていた精霊、レフィス・トールが、制止した。
「今の、雷について「世界の意思」から物言いがあった」
「どういうこと」
訝しむカルナックの疑問を引き取ったのは、ラト・ナ・ルア。
「つまり、今みたいな自然や土地そのものへの破壊的干渉は禁止ってことよ。人間同士でやるぶんには、殺し合おうが勝手。それには文句を言わないけれど」
唇の前に、人差し指を立てて、ないしょの話よ、と言う。
「だって水や大地や空気はセレナンの血であり肉、息であるから。もしどちらかの陣営が、この世界自体にとって害になると世界が判断したら、そのときは……」
精霊たちの声は、カルナックの後ろで武器を構え、出る機会を今か今かとうかがっているカントゥータにも、そして家の中からセラニスとカルナックの戦いの行く末を、固唾を呑んで見守っていた人間たち、コマラパとローサ、クイブロ、それにカルナックの可愛がっているウサギの「ユキ」にも届いた。
……もっともユキは、半分は精霊火なので、立場は違ったのだが。
「そのときは、人間世界は、そこで終わり、ってことよ」
少女の姿をした精霊は、朗らかに、宣言した。




