第5章 その20 ラプラから見た話(5)そして輝く雪の祭りへ。
20
人間と精霊の婚姻契約を結んだクイブロと嫁のカルナックは、高原で家畜のパコたちを放牧している姿をよく見かけるようになっていた。
それにしてもカルナックは可愛いっ!
無邪気で素直で、あたしたちにもなついてくれる。
反則だわ!
どうか、せめてあの二人が幸せに添い遂げられますように。
あたしは《世界》に願った。
その願いが聞き届けられるならば。この世界でも、希望が持てる気がした。
「タルパおじさん、そういえば、なんで今頃、行商に来たの。いつもはイモの収穫時期のあとじゃない」
あたしたちはアティカ村出入りの『早便』と呼ばれている情報屋、タルパ・パルタおじさんに尋ねた。まだ三十歳だけど老け顔なんだよね。カントゥータ姉様に恋してるけど見込みはなさそう。
「ああ……」
おじさんは言葉を濁した。
「夢見があったんだよ。ちょうど近くの街で泊まっていたところでね。久しぶりに女神様が……いや、なんでもない」
「女神様? もしかしておじさんも『先祖還り』なの!?」
「ほわあぁ!? なんでそのことをっっ!」
すっごい慌ててるおじさん。
「だって、あたしたちも生まれ変わるときにセレナンの女神様に出会ったんだもん」
転生したなんて伝えるのは大変なんじゃないかと危惧していたんだけど、杞憂だった。タルパおじさんも転生者だったんだ。
かいつまんで事情を説明する。
アトクがグーリア神聖帝国の命令で、アティカ村に侵攻していることを。
おじさんは驚いたけど、質問を繰り返した後で、何度も頷いて、言った。
「そういうことなら、アトクが還ってくるってことだけ伝えておくよ。あまり詳しく知っていたらかえっておかしいからな」
街で小耳に挟んだ情報として、いつものように村長に伝えてくれることになった。
「望みはなくたって惚れた女のいる村だ。彼女が村長になるまでは、無くなってもらっては困る」
「そこは、生まれた村だから、とか格好良いこと言いなさいよ」
「格好付けたってなんもいいことないからな!」
こうして陰でこっそり『早便』タルパおじさんに情報を流してもらったのが功を奏したのかどうか。
レフィス・トール様とラト・ナ・ルア様、精霊たちの側からも忠告があった。『悪霊』が、悪い運命が近づいていると。
グーリア神聖帝国で戦死して蘇生させられたアトクは確かに『悪霊』なのかもしれない。そう思うと、悲しかった。
でも、エイリス女神様は味方だって約束してくれた。
諦めずにあがこう。
がんばろう! あたし。
※
婚姻の半月後、精霊様の警告や『早便』の知らせを受けて、クイブロは《成人の儀》に臨み、銀竜様にお目通り願うことになった。
カルナックは、ついていくと言い張る。嫁だからいいだろうと許可を得て、二人は旅立つ。
あたしたち三人娘は祈るような気持ちでクイブロたちを見送った。
まさか銀竜さまにお目通りかなって加護をいっぱい得たばかりか、当の銀竜様の背中に乗せてもらって村に帰還してくるとは、想像もしていなかった。
それから数日して還ってきたアトクは、たいへんな騒動を起こしたわけなんだけど。
結果的に、全てはうまくいった。
「決めたわ、あたし」
ティカに、スルプイ。それから両親に、あたしは誓った。
「絶対、アトク兄を婿にするっ!」
「ラプラや! アトク兄は銀竜さまのお弟子になったんだ」
「神様みたいなもんなんだよ! 婿になってくれなんて」
気を揉む父さん、母さん。
ごめんね。ここは譲れない。
「だいじょうぶだって!」
胸を叩いて、あたしはうなずく。
だってアトクは、あのひとは……あたしのもの。
前世の、そのまた前世の。
ずっとずっと昔からの約束なの。
あのひとが覚えて無くても。きっと思い出させてみせる。
あたしは誓う。
彼を取り戻す!
そして、四年に一度の、『輝く雪の祭り』が開催される早春と、『投石戦争』の夏が、やってくる。
やっと戻ってきました現在へ(作品中の)
次からはクイブロやカルナックの視点に戻ります。
シャンティとミハイルも。
どうぞ、よろしくお願いいたします。




