第5章 その16 ラプラから見た話(1)イル・リリヤの降臨
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嫁になるはずだったカルナックの姿が、精霊の兄、姉さまたちに手をとられ、精霊火に包まれ、銀色の靄に覆われて、霞んでいく。
精霊の世界に帰ってしまう。
クイブロ詰んだなって、みんな思ったはずだ。
カルナックは、人間として生きることを諦め、迎えにきた精霊様たちに連れ帰られてしまうのだ。
ところがクイブロは、思い切った行動に出た。
カルナックを包む精霊火の中に飛び込んだのだ。
そして着ていた服ごと抱えて、連れ戻した。
ローサおばさんが作った服をまだ着ていたから、服をつかんだのだ、と言った。
引き戻すなんて前代未聞だ、と、精霊のラト・ナ・ルア様は呆れた。
ローサおばさんが糸を紡いで染めて織って縫い上げ、祝いの刺繍を施した。人の思いが籠もっている衣装だから、それがまだ「縁」を繋ぎ止めていたのだろうと。
精霊様たちが《世界》にお伺いを立て、「赦し」が得られた。
クイブロとカルナックは、は正式に「人間」と「精霊」を結ぶ婚姻の儀を行うことになったのだ。
精霊の森に湧く「根源の泉」の聖なる水を賜り、クイブロは人間の身でありながら精霊に近づいていく。
具体的に言えば寿命が延び、めったなことで死ななくなる。
カルナックはそんなクイブロと運命を共にし、添い遂げる。
この世の誰にも、引き離すことはできない。
そして奇跡は村のみなにも降りかかる。
このアティカ村は、精霊の祝福を受け、全員の長寿と健康を約束されたのだ。
精霊と人の間に立つ村。
それがアティカ村だ。
さて、それからいろいろあった。
セラニス・アレム・ダルっていう性格の悪い奴が襲撃してきたり。その実体は「魔の月」で、カルナックと、カルナックの中に宿る別人格『魔女カオリ』が撃退したり。
その後、セラニスの母親……真月の女神イル・リリヤ様が降臨なさった。
セラニス・アレム・ダルの非道を詫び、傷ついたクイブロを癒やしてくださった。
ところで。あたしラプラとティカ、スルプイの『先祖還り』(転生者)三人娘の見たところでは、イル・リリヤ様は、人工知能だ。
自分の姿を作り出して地表に投影していると思われる。
充分に発達した科学はまるで魔法のように見えるだろうという、あれだ。
しかもイル・リリヤ様は、自分を「神様」だとは名乗らなかった。
人類支援プログラムである、という。
この意味がわかったのは『先祖還り』だけだろう。
そしてセラニス・アレム・ダルはイル・リリヤ様の補助をするために作られたプログラムなのに、バグによるものかどうか、おかしくなっていて人類に害意を抱いているというのだ。それを諫めるイル・リリヤ様の機能を制限しているという。
その夜はカルナックが手厳しくセラニス・アレム・ダルをやっつけた……やつの手駒である「魔天の瞳」を使ってコンピュータウィルスを送り込むというとんでもない手段で、バグっている本体プログラムを追い込んだために、イル・リリヤ様が自由になったのだという。
いずれセラニス・アレム・ダルは復活するだろうけど。
イル・リリヤ様も見守る中で、盛大に祝いの宴が続いた。
クイブロの苦難は、これからなのだけどね。
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もうしばらく、あたしの回想に、お付き合いくださいね。って、誰に呼びかけているのかな? あたしは。




