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第5章 その13 ラプラの初恋(5)世界の大いなる意思は問う


          13


 さて、このあたし、21世紀東京からこの世界セレナンに転生した者『先祖還り』であるラプラの語る物語も、そろそろ終わる。


 これからも人生は続いていくけれど、とりあえずは、ここらで一区切り。


 あたしは転生チートなんてものもなく僻地の村だけどごく普通に生まれてきた。

 できれば特殊能力とか欲しかったわ。

 そうしたら前世での恩人だったアトクに何かお返しできたかもしれないから。


 この、大好きで鈍感バカなアトクは。

 例の行商人がやってきて病気と共に不和の種を振りまいて去ってからというもの、どんどん立場を悪くしていた。村で悪いことが起きれば、妹や弟たちの飼っている動物が殺されたりなんかすれば、アトクのせいって決めつけられて。

 なんでアトクも否定しないの!? 言い訳しないの!?


 しまいには、同年代の男の子たち数人を引き連れて村を出て行ったアトク。


 悲しかったのは、いつの間にやら昔からアトクが乱暴者で異常だったみたいに村人たちばかりかアトク本人までもが思い込んでいったことだ。

 まるで記憶を操作されているみたい。


 けれど、あたしは影響をまぬがれていた。

 どうしてなのか、明らかになったのは、成人の儀式に臨むことになったときだ。


 ティカ、スルプイ、仲良し三人娘のうちで最初に、あたしがやることになった。

 村の誰もが、子供から大人になるために、必ず、一人で向き合う儀式だ。


 氷河峰を目指して、片道四日の行程を歩く。

 男の子でも女の子でも同じ。

 そして、村の守護者である銀竜様にお目通りと加護を願い出る。


 その途上。

 氷河を歩いているときに、足が滑った。

 油断していた。

 暗闇に包まれる。


 どこまで落ちたのか、わからない。

 気がついたら、あたしは、真っ白な空間に浮かんでいた。

 落ちるとも昇るともつかずに漂っていた。


『そうか、おまえは地球の神と契約していた者か』

 突然、声が響いてきた。

 男性とも女性ともつかない無機質な。

『なるほど。アトクの歯止めとなるように』


「うまくできなかったわよ」

 あたしは自嘲する。

「今度こそ告白したかったのに。大好きって」


『言えばよかったではないか。わたしは止めていないぞ』

 楽しげに声が響く。

『だがヒトよ。おまえはアトクより先に老いて死ぬさだめだ』


「かまわない!」

 思わず叫んだ。

「あのひとを助けたいの。嫌われ者になるなんて。ほんとはそうじゃないのに。そうよ、なんでなの? 悪いことはみんなアトクのせいなんて!」


『悪いが、あれはわたしの手駒だ。そのようにするために地球から呼び込んで転生させた。こたびの人生では家族を得たようだが、いずれは失う』


「だめ! そんなの!」

 喉が切れるほど叫んだ。

「アトクには幸せになってほしいんだもの! あたしはどうなったっていいの、どうせ、前世ではあのひとが助けてくれなかったら死んでた。でなければ死ぬよりつらいめにあってた。あのひとは、ほんとは優しい人なんだから! 大切な家族のためなら手を血で汚すこともできるほど」

 言い切ってもいい。アトクは行商人を殺すか脅すかしてクイブロを助けるための薬を手に入れたのだろう。


『では、尋ねるが。恋心とやらを打ち明けたところでアトクは応じないかもしれないぞ。思いはかなわなくとも?』

 不思議そうに、声は尋ねた。


「そんなのどうだって」

 ……どうだっていい、わけじゃないけど。

「いいの。ずっといっしょにいられなくたって、いい。アトクの、笑っていられる世界が……あたしは、ほしい」

 いま思い出した。あたしが転生した理由は、それだったんだ。

 最後に見た、あのひとの顔は。

 とても優しかった。


『面白いヒト族だ。おまえに機会を与えよう。では、みごとアトクの魂をつなぎ止めて見せるがいいぞ』

 そのまま声は遠ざかっていきそうだったので、焦った。


「ちょっと待って! いったい、あんたはなんなのよ!? アトクを手駒だなんて。そんなに偉いの? なにさまよ!」


『確かに言い忘れていたな。わたしは《世界セレナン》だ。おまえにとっては、この異世界をあまねく創造し司るもの。厳密には《生命》ではない。高次の意識にして根源のエネルギーとでも言うべきか。だが、インターフェースが必要かもしれぬな』


 銀色のもやが周囲に渦巻き、収縮していって、立体画像のようなものを作り出した。

 そう、それは……


 新宿都庁くらいある巨大な女性の姿だった。

 滝のように流れ落ちる銀色の長い髪。透き通る光を宿した青い瞳。


『わたしはセレナン。この世界の大いなる意思。おまえたち人間は世界の女神と呼ぶ。または《青き清浄なる大地の女神》と』



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