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第5章 その11 ラプラの初恋(3)前世を記憶する幼児


         11


 あたしの名前はラプラ(翼)。

 山奥どころか森林限界を超えた高山台地の奥も奥、人里離れた山の上にある『欠けたアティカ』村に生まれた、21世紀の東京に住んでいた女子高校生だったという前世の記憶を持つ幼女(今のところは)。

 前世の記憶が鮮明なのは、心残りのせいなのだろうと思う。

 大好きな、命の恩人に、「ありがとう」って。

 ううん、本当は「あなたに恋してる」って、言えなかったこと。


 ところで、

 村長のとこの三兄弟は『先祖還り』じゃないか。そう思うようになったきっかけは末の弟クイブロである。


 アトク兄は、あたしより六つ上。

 リサス兄は、あたしより五つ上。

 間にカントゥータ姉さま。あたしより三つ上。でも姉さまは『先祖還り』じゃない気がする。何となく。生粋の戦士向きだ。

 そして末の弟クイブロは、あたしより三つ下。


 アティカ村の子供たちは集会場も兼ねてる村長の家に集まって一緒に遊んだり読み書きくらいは大人から教わったり、ケンカしたりして大きくなる。だからみんな、きょうだいみたいな感じだ。


 クイブロは、

 変わった目をしてた。

 あれはどこか、うんと遠くを見ている、悲しげな目だ。

 ちびっ子のくせに。


 あたしはクイブロに直接たずねた。

「あんたは何がそんなに悲しいの」


 するとクイブロは、驚いたように大きく目を見張った。

「なんでわかる」

 一歳の幼児が言う。びびるわ。


「あたしも同じだからさ!」


 この世界のではない前世の記憶を持った生まれ変わり。ここではそれを『先祖還り』と呼ぶ。

 そしたらクイブロは、あたしに秘密をうちあけた。


 前世を覚えていること。

 どうしても会いたい運命の相手がいるってことを。

「夢を見るんだ。長い黒髪で黒い目で、すごくきれいな女の子。おれはあの子に会わなくちゃいけない」


「へぇ。すっごいじゃん」

 背中を叩いた。


 クイブロはきょとんとした目で、不思議そうにいう。

「ラプラは、しんじてくれるの。こんな、へんなはなし」


「それを言ったら、あたしのも相当ヘンだよ」

 だからあたしも打ち明ける。

「あたしも、どうしてもまた会いたい人がいる。神様が約束してくれたんだ、同じ世界に生まれ変われるって」

 ちょっと言い回しは違ってたけど、そういうような意味だったんだから。

「だから、この人生、がんばって生きてかなきゃ! あんたも! そんな虚ろな目をしてないで」


「うん!」


 一歳のときだ。普通なら、まだ喋ることなんてできやしない。『先祖還り』ならではのこと。

 クイブロは、それからちょっと元気になった。良く笑い、野山を走り回り、パコチャの世話をして。つまり村の他の子供と同じように。


 だけど三歳の時、クイブロは高熱を出した。


 だいたいあたしたち『欠けたアティカの村』の人間は、身体が丈夫だ。そうそう熱なんて出ないのだが、あるとき村の外からやってきた行商人が帰ってから、高熱の出る人間が何人かあった。老人がほとんどだったが、その中にクイブロがいたのだ。


 その病状を診たリサス兄は、アトク兄と何やら長く話し合っていて。

 ちなみにリサスは十一歳、アトクは十二歳である。


 アトク兄は無言で村から飛び出していった。

 行商人を追いかけていったのだと、誰も気づかなかった。

 二日後に薬を持って帰ってくるまでは。


 アトク兄は血まみれになっていた。

 怪我でもしたのかと問いかけるローサに、怪我はない、行商人が薬を持っていたとだけ答えた。

 病人達の症状は変わらず、皆が熱のために昏睡していた。


 ……あたし、ラプラが昏睡なんてことをわかるのは、前世を覚えているからだ。だけどあたしみたいな子供は病人に近寄ることは許されなかった。

 リサス兄は、病状を把握していたのだとしか思えない。それをアトク兄に伝えたのではないか。

 このとき、この二人も『先祖還り』ではないのだろうかと、あたしは感じた。問いただすような状況ではなかったし、聞けずじまいだったけど。


 翌日には熱も下がりクイブロたちは目を覚ました。

 村長である母親のローサは安心すると同時に看病疲れで一日伏せってしまったけれど。


 村にはその後、あの行商人たちはやってきていない。


 そして目覚めたクイブロは、前世の記憶を語ることもなくなった。

 まるで普通の幼児のように。


 でも、あたしは知っている。

 あの寂しげな目。

 野原でパコたちを放牧しているとき、あの子はつぶやいた。

「……カオリさん」という、日本語を。

 前世のことを、もしかしたらほとんど覚えていないかもしれないけど。

 もう一度会いたい、カオリという女の子のことは忘れていないはずだ。


 あたしだって、あのひとのことを忘れるなんてことはあり得ないから。

 そしてあたしは。

 アトク兄が血まみれになって帰ってきた姿を見たとき、感じた。

 このひとだ、って。

 前世の、女子高生だったときのあたしを助けてくれた、片手にナイフを持って血の海に立っていた姿を彷彿させた。


 あのとき、あの人は、家族を殺した犯人をついに追い詰めて自分で殺したから。

 だから、もうあとはどうでも良くなって、逃げ続けていたのに、あっさりと逮捕されて、それまでの罪を全て認めたのだった。


 あのときの、どこか吹っ切れたような表情が、アトク兄にも、あった。




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