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第5章 その4 披露宴



 村長ローサの家の前に設えられた石のテーブルには、豪勢な料理がそれこそ乗り切らないほど、所狭しと並べられていた。

 宴のテーブルそのものも、一度に三十人ほどは並んで席につけそうなほどに巨大なものだったのだが。

 そして料理は、量も多いが、その質もすごかった。


「いったいどうして、このような土地で、これほどの豪華な料理を用意することが可能なのでしょう?」

 シャンティは感動に打ち震えていた。

 小なりといえども彼は北方にあるアステル王家の第八王子。

 グルメなのであった。

 しかし、そのシャンティが、舌をまく。


 牛、豚、羊などの肉や、卵料理。

 そのまま単に焼いて供したただけの料理はほぼ無く、卵ひとつとっても茹でたり焼いたりオムレツにスコッチエッグにポーチドエッグ、卵液で鶏肉や珍しいきのこや木の実を寄せて固めたり。

 次に肉ならば高価な香辛料を惜しげも無く使ったり、巻いたり蒸したり炙ったり飾り付けに凝ったり、果てはムースにテリーヌまで。見たこともないような珍しく手のこんだ料理のオンパレードというわけだ。


「宮廷料理じゃないですか…」

 夢中で食べていた、シャンティの手が止まった。

「どうしてここで…」

 しかし再び手をのばして、大量に盛られた菓子を掴んだ。

「夢なら醒める前に、できるだけ食べておかねばっ!」

「若様! 見苦しい」

 ミハイルが、手を払う。


「まあまあ、よいではないか」

 先ほどの少女の父親、褐色の肌に白髪、真っ白な顎髭をたくわえた壮年男性が、とりなした。


「これは、コマラパ老師。ありがとうございます」

「深緑のコマラパ様ともあろう御方が。このような贅沢はいかがなものかと、止めてくださるかと期待しておりましたが」


「ああ、これはの、贅沢でもないのだ」


「これほどの食材をあがなうにはいったいいかほどの金子が必要か見当もつきません」


「ふむ。あがのうてはおらぬからの」

 深緑の大賢者は、ぽりぽりと顎を掻いた。


「なぜかと申せば、これは我が娘が、ルミナレスの霊峰におわす銀竜様に祝福していただいた技能スキルにより創造したもの」


「創造!? まさか精霊様のように、ものを無から造り上げると!」


 興奮ぎみのシャンティに、老師は苦笑する。


「無からというわけではない。この世界に満ちている『元素』というものを集め変換して、食べたことのあるものならば全て創り出すことができるわけでな」


「老師さま、おたずねいたしたきことが」


「うむ。ミハイルどのでしたな、ご質問でも?」


「無から創り出すは神の業。精霊の御業。あなたさまはかつてレギオン王国で神の御業に近い治療を行ったとして告発され申したのでは」


「身に覚えのなきことです」


「しかし」


「そんなことよりミハイル!」

 シャンティは声を上げた。

「食べたことのあるものならと老師はおっしゃられた! つまり、コマラパ老師の娘さんは、宮廷料理を口にされたことが、一度や二度ではないということ!」


「……そちらでしたか」

 コマラパの口元が、わずかに歪んだ。苦いものを噛みしめたように。


「我が娘とは、生後間もなく生き別れになっておりましてな。母親と共に、数年、とある王家の係累の食客に」

 コマラパは、そこで言葉を切り、あとを濁した。


「それはどちらの」

 問いかけたシャンティの脇腹をミハイルは小突いて、やめさせた。

「殿下。こちらの土地では、おしゃべりな者は『長い舌』と呼ばれて嫌われまする」


「いやいや申し訳ない。おしゃべりが過ぎましたのは、わたしの方です。せっかくのよい気分に水を差しましたな」

 コマラパはテーブルから杯をとって青年達に渡した。

 透明なグラスに、透明な酒が満たされている。


「今宵は我が娘のめでたき婚姻の披露宴。どうぞ杯をお受けくだされ」


「いただきます」

「若」

「ミハイル。祝いの杯ですよ。断るのは礼儀に反します」

「……確かに。ご相伴いたします」


 二人の青年は、杯の中身を一息に飲み干し、あやうく、むせるところだった。


「これはきつい蒸留酒ですね」


「おや、北からのお客人とうかがったので、このくらいは水がわりで、平気かと思いましたが」

 にこやかに応じたのは、二十歳ほどの、長身の美女であった。

 赤みがかった金髪は見事だが、手入れの方は、いささかおろそかになっているようだ。


「ようこそ、遠方よりこられたお客人。我が家の祝宴にお越しいただき、心よりお礼を申し上げます。わたしは村長の娘、カントゥータ・ロント・プーマ」

 にっこりと微笑んだ。

 が、満面の笑みを浮かべてはいるが全身からは闘気がたちのぼっていると、ミハイルは見て取った。


 これほどの戦士に遭遇するとは予想だにしていなかった。


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