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第4章 その18 その頃のクイブロと銀竜様


               18


「急がねば!」

 カントゥータは、ひょいと手を伸ばしてカルナックを抱き上げた。


「お義姉さま、じゃまにならない?」

 カルナックが気にする。


 しかしカントゥータは、にこやかに答えた。

「なんの。うちの嫁御は子ウサギのように軽い。それに、こんなに可愛い嫁御を抱いていけるなら苦労など吹き飛ぶ」


「おまえ、いつからそんなに女の扱いに慣れたんだ」

 三年前までのカントゥータしか知らない長兄アトクが、驚きの目を向けた。

「おれが村を出る頃は、確かに男物の服ばかり好んで着ていたが……」


「女性はかわいいし綺麗で、ふかふかだ。守ってやりたい。良いだろう?」

 カントゥータの返答は少しずれていた。

 だが、そんな彼女も精霊レフィス・トールの前では、女性らしく恥じらったり顔を赤くしたりもするのだったが。


「待って」

 カルナックは、抱き上げてくれたカントゥータの腕に、目を留めた。

「お義姉さま、腕に血が」


「ああ。紐で縛って止血しておいたのだがな」

 傷を負った経緯についてはカントゥータは語らなかった。

 グーリア帝国の妙な装置に操られていたときのアトクがつけた傷だ。

 カントゥータは、接戦で切れてしまったスリアゴの紐を用いて固く締め付け、止血していたのだった。


「すまん」

 一言、アトクが詫びる。


「いや、わたしの油断のせいだ」

 多くは語らない兄妹だ。


 カルナックも、よけいな口出しはしなかった。

 遠慮がちに言う。

「毒は、おれが消したけど。このまま傷口を縛っていたらいけないよ。後で手が動かなくなったりするかも。治せるか、やってみる」

 言うなり、カントゥータの手首に唇を寄せた。


 小さな舌を出して、ぺろりと舐める。

 とたんに、カルナックの身体からにじみ出してきた、精霊火の青白い光が、カントゥータの手首を包み込んだ。


 傷口を縛り付けていた、スリアゴの丈夫な紐が、自然にほどけて、落ちていく。

 手首を包んだ精霊火が消えていく。


「おお!」

「すげえ」

 カントゥータとアトクは口を揃えて驚く。

 精霊火が包んでいた部分に、傷痕ひとつない肌があらわれたからである。


「これなら心置きなく戦える!」

 女戦士カントゥータは、会心の笑みを浮かべた。



 その頃、『欠けた月』の村では、グーリア帝国の駆竜部隊が暴れ回っていた。


 ほとんどの村人は、村長であるローサの指示で、山の上に逃げた後であるから、人的被害は出ていないのが不幸中の幸いだ。


 駆竜部隊は目に付くものを破壊せよとの命令に忠実に従う。


 作物を保存していた倉庫や、家々が次々に打ち壊されていく。

 無残なありさまだ。


 ローサと共に村にとって返したクイブロが見たのは、そんな惨状だった。


「ちっくしょう!」

 憤りに打ち震えるものの、暴れる駆竜の前に出るのは危険きわまりない行動であると、認めざるを得ない。


「だが、愛すべき孫よ、玄孫達よ。これしきのこと、絶望するには至らぬよ。なにしろ、ここには儂がいるのだからの」


 破壊行為を見ながらも、悠々たる声が響く。


 クイブロの傍らに降り立ったのは、長い銀色の髪を旗のようにたなびかせ、細身ながら筋肉質の身体にぴたりと沿う銀色の衣をまとった長身の青年、『アルちゃん』こと、アルゲントゥム・ドラコー。


 イル・リリヤに遣わされた人類の守護者、銀竜である。


 ただ、アルちゃんも、セラニス・アレム・ダルが全天に展開している監視網を一応は気にしており、

「竜の姿になるのは控えることにする」と言う。


 現時点でセラニスの影響を受けていない自分や他の『色の竜たち』のような存在、切り札は、いざというときまでは隠し持っておいたほうがいいのだと。

 人間の姿で、力を放つ。


 片手を振り上げれば嵐のごとき風が吹き荒れる。

 振り下ろせば、風は逆風になり、駆竜のみならず石造りの家々まで吹き飛ぶのだった。


「アルちゃん。やりすぎ」

 思わずクイブロはぼやいた。

 ありがたい援軍ではあるのだけれど。


「おまえ。銀竜様に、おそれおおいことを言うでないよ」

 ローサは息子をたしなめた。


「確かに、こりゃあ、後始末が大変だねえ。だけど、さすがは守護神様だ。御業の、なんとすごいこと。何より、あの駆竜どもを蹴散らさなければ、あたしらの村の未来はないのだからね」

 ひたすら感心しているのだった。


 しかしながら当の銀竜は、顔をしかめた。

「ふぅむ。加減ができぬ。かえって儂が壊してしまうのぅ」


 自分でも失敗したと感じたのだろうか。

 反省の色を浮かべるアルちゃんであった。


「お気になさらず、銀竜様! 思いっきり、やっちゃってくださいな!」

 村長であるローサは決断した。


 後のことなど思い悩むゆとりはないのだ。

 ともかく今を乗り切らなければ、先は無い。


「じゃあ、そろそろ、あたしも仕掛けるよ!」

 はなはだ不穏な言葉をローサは吐いた。


 やはりカントゥータやアトクたちの母親である。

 若い頃は先頭切って、村をあげての『投石戦争』に参加していたのだ。


 嬉しそうに目を輝かせ、投石紐を握って飛び出していった。


「母ちゃんっ!?」


「おまえは、まだ子どもだ。あたしの後からついといで!」

 なんとも好戦的なローサに、クイブロは、驚いた。


 しかし、まあ、

 あの姉ちゃんの親だもんな。と、納得するのだった。




 カントゥータとアトクが、カルナックと共に帰還するまで、あと僅か。




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