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2話
「…もう、うちには入れない…ふ、2人きりでは…会わない」
「むつ…」
西原が1歩踏み出すと、むつはスポンジを持ったまま壁際まで下がった。近付かれる事でさえ、嫌がられてるのがありありと分かる。胸の前で持っているスポンジから、ぼたっと泡が床に落ちた。
「分かった…ごめんな、本当に。もう何もしないから、顔見せてくれないか?」
うつ向いたままの、むつは顔を上げようとはしない。
「俺の顔見るのも嫌、だよな…」
「…隈、酷いから。目も腫れてるし…だから、眼鏡…その…だから…」
一晩泣きっぱなしだったうえ、寝不足で隈は酷いし瞼が腫れているから眼鏡で隠してる。だから顔は見せれないのだと、むつは言いたいようだった。その言葉も嘘ではないのだろうが、顔を合わせてにくいのだろ。西原は、それを分かったうえで、そっかと頷いた。