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2話
ホットサンドにサラダとスープ。簡単だけどと言っていたが、十分すぎる程だった。
「…むつは、食べないのか?」
「食欲ないかな…」
むつは顔を上げずにキッチンで洗い物をしている。会話が続かず、西原はもそもそとホットサンドを口に運んだ。出来立てのように温かいのは、西原が起きるまで温かくしておいてくれたからなのだろう。
食事を終えた西原が食器を持ってキッチンに行くと、むつはそこに置いといてとだけ言った。やはり、顔はみせてはくれない。食器を置いた西原は、すぐに立ち去ろうとはせずに、むつに視線を向けていた。西原が自分を見ている事は分かっているはずなのに、むつは知らん顔し続けている。
「むつ、昨日は本当にごめん」
「いいの、気にしないで。お酒呑んでたし…酔った勢いでってある事だし…」
西原が酔うほど呑んでいない事は、承知しているはずだが、むつはそういう事にしたいようだった。
「…でも」
むつは泡立ったスポンジを手に持ったまま、動きを止めた。声が震えているし、つうっと頬に涙が流れたのを西原は見逃さなかった。