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2話
「…好きだ。今、怖がらせたのも嫌がってるのも分かってる。けど、むつの事が好きだ」
「…放して」
「嫌だ」
「放してってば‼」
無理矢理にでも西原の腕を引き剥がそうとしているようだが、震えているむつの手には力がない。
「い、や…っ…放して…」
ぱたぱたっと西原の手の甲にむつの涙が落ちると、ようやく西原は腕の力を抜いた。むつはすぐに西原から離れると、ぱたぱたと走って私室に入り、ばたんっとドアを閉めた。
「…むつ」
ドアを開けようと西原が、ドアノブに手をかけたが回りもしない。内側から、むつが押さえているのだろう。ドアの向こう側から、しゃくりあげる声と鼻をすする音が聞こえている。西原はドアノブから手を離した。
「ごめんな…」
西原はドアから離れて、ソファーに座ると眼鏡をテーブルに投げ出した。額に手をやり、はぁと溜め息をついた。西原が離れた事が分かったのか、かちゃっと微かな音がした。むつもドアノブから手を離したのだろう。