2話
むつの手からワイングラスを取り上げテーブルに置くと、西原はむつの頬に手を添えて自分の方を向かせつつ、顔を近付けた。
はっとした時に、僅かに開いた唇から、西原が舌を割り込ませてきた。酒とタバコの臭いのする熱い舌が、むつの舌を撫でると、むつは、西原を突き離した。何をされたのか理解が出来ないのか、分かっていても受け入れられないのか、むつは自分の唇を指で撫でている。そんなむつを西原は、無表情に見下ろしている。むつは顔を上げる事も出来ずに、西原から離れようとしたが西原がぐっと腕を掴んだ。よほどの力だったのか、小さな悲鳴が口から漏れている。
西原が再び、顔を近付けるとむつはぎゅっと目を閉じて、身体を強張らせた。1度目よりも優しく、軽く触れるだけのキスをして西原が離れた。固く目を閉じたままのむつの睫毛が、震えてしっとりと水気を帯びてきている。
動けずにいたむつだったが、そっと目を開けるとそろっと西原から離れようとした。だが、西原がそれよりも先に腕を回して引き寄せた。先程、力強さはあるが腕を掴まれた時のような乱暴さはなく、壊れ物を扱うような優しさがあった。それでも、むつは西原の手をほどこうと、引き剥がそうと爪をたてている。