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2話
もんもんと考えていた西原は、何故かだんだんとイライラしてきていた。冬四郎は、明らかに西原の気持ちは知っている。西原自身が自ら言っているのもあるからだ。それでいて、付き合ってもないのに大通りでの別れ際のキス。むつのキーケースを持っていくのに、自分が行くとは言わずに、西原に行かせるようにはっぱをかけた冬四郎。何がしたいのだろうか。
西原は、ジャケットのポケットからタバコを出して、吸い始めた。むつはテーブルの灰皿を取って、西原の膝の上で持ってくれている。
むつとの仲が気まずくならないように、早めに少しでも顔を合わせておけ、と気遣ってくれたのは、おそらく本当なのだろう。だが、それでも冬四郎に小バカにされているような気がしてきていた。むつがお前になびくわけがない、そう言われている気がしてならない。
「むつ」
「んー?」
むつはボトルを逆さまにするようにして、残りのワインをグラスに入れると、またぐいぐいと呑んでいる。
西原は、むつの手から灰皿を取ると、タバコを揉み消してテーブルに戻した。