1話
「何でだよ?地蔵目の前だぞ?」
祐斗は西原の腕を掴んだまま、じりっと1歩下がった。これ以上行くのは、あまり良くない。そう本能的に察していた。むつや颯介が居るならともかく、1人で西原を連れてこれ以上、近付く事はやめた方が良さそうな気がしていた。
「このまま、下がりましょう。俺には無理です…むつさんに来て貰って…来てくれるか分かりませんけど」
祐斗がそう言うならと、西原はこの場では何も聞かずに腕を掴まれたまま、一緒にじりじりと後退した。
大通りまでバックしてくると、祐斗はようやく西原の腕を放した。びゅっと強い風が吹いたが、祐斗の額には汗が浮いていた。祐斗は袖で汗を拭い、大きく深呼吸をした。まだ心臓がばっくんばっくんと、今にも飛び出しそうなくらい強く脈打っている。
「祐斗君?」
「あ、大丈夫です。大丈夫ですけど…ここは大丈夫そうではないですね」
祐斗は目を細めて、自分がいる場所から地蔵、その先の公園を見た。走ってきた時には気付かなかったが、無数の霊があちこちに立ち尽くしている。祐斗の姿に気付いている者もいるようで、じっとこちらを見ている。だが、祐斗にはどうする事も出来ない。すぐに事務所に戻りたい所だったが、祐斗は注意深くそれらを観察した。本音は今すぐ目を背けたかったが、報告をしなければいけない以上そうする事は出来ない。
出来る仕事だと振ってもらい、認められてきたのかもと嬉しく思っていたが、この前の廃病の時以上に、自分の未熟さに腹立たしく思った。