2話
独り言だと思って聞き流していいと言ったわりに、西原の言い様は問い掛けだった。むつは身を乗り出して、ワインを呑むと、西原をちらっと見た。
「自惚れかなぁ…でも、逃げないし嫌がらないってなると、どうしても…側に居たい。何なら触りたい」
「…もう触ってるでしょ?」
「ん、まぁな。でも直にじゃないだろ?なぁ何で嫌がらないんだ?」
むつは手にしているワイングラスをくるくると回して、中の赤い液体を眺めていた。中身を飲み干して、テーブルにグラスを戻すと、身体をひねるようにして西原を見た。
「女々しい、回りくどい」
「分かってる。分かってるって、そんな事!!もう、まじでダメな男だと思ってる。かっちょ悪って…でも、またフラれたら立ち直れない」
「なら、何にも言わなきゃいいのに」
「…だな」
むつはまた前を向くと、西原にもたれた。
「でも、分かる。気持ちは分かる。あたし…言えないもん。嫌われたくないし、気まずくなりたくないから言えない。今の関係で満足して、多くを求めない方が良いのかなって…でも、側に居たいし、触れていたいし…相手が嫌がらないってなると尚更、その優しさに甘えて。でも、ちょっと…それが寂しい」
「え、お前宮前さんと…」
話を聞きながら、帰り際にキスするくらいの仲なら当然、付き合っているものだと西原は思っていた。だが、むつの言い様からすると、どうやらそうではないようだった。なら、付き合っているわけでもなく、キスをしていた事になる。それも、なんな人通りもある場所で。そう思うと、どういう経緯なのか冬四郎の大胆さは尊敬に値する。