2話
「なぁ、なぁ」
西原は皿の人参を仕方なく食べながら、むつを呼んで自分の足を叩いた。
「何よ?」
「座って。ここに」
「はぁ?やだ」
ばっさりと言われたが、西原は気にした様子はなく、むつの両脇に手を入れて持ち上げると、あぐらをかいている足の上に座らせた。
「なんなの?甘ったれ?」
「そうかも」
西原はむつの腹に手を回して、首筋に顔を押し付けた。ほんのりと汗の臭いと甘い香りがした。
「汗くさいよ?夕雨さんの所まで歩いたから、結構汗かいたし」
「うん、汗の臭いするな」
ばちんっとむつは西原の太股を叩いたが、西原はお構い無しに顔を押し付けてすんすんっと鼻を動かしている。
「ちょ、ちょっと…止めてそれ、恥ずかしいから、におうなってばぁ」
逃げようとしているが、がっちりと西原の腕に捕らわれているから立ち上がる事も出来ない。
「なぁ、デカい独り言だと思って聞き流してくれていいんだけどさ…さっき、元彼の言うことなんか気にしなくてもいいのにって言ったろ?気にしたり、ショック受けたりするって事はさ、ちょっとは俺の事…気にしてる?昔の事なしで、今…少しはプラスの方向だったりした?」