2話
むつは頬杖をついて、テレビを見ながらすっかりくつろいでいる様子だった。だが、西原はこの会話もなく、黙々と呑むだけの時間が苦痛でしかなかった。部屋に上がると言ったものの、早くも後悔していた。
ワイングラスを持っているむつの表情は見えない。だが、ふうと息をつくと西原の隣に座った。拳、2つ分くらい離れているが、近いには近い。むつは西原の方にワイングラスを向けると、西原は受け取ってそれをテーブルに置いた。
身を乗り出すようにして西原に近付いたむつは、西原の額をぱちんっと叩いた。意外と強く叩かれ、西原は目を丸くした。
「…気まずいなら来なきゃいいのに」
「だよな…ごめん」
「ってか、さ。そんなに気にする必要ないよ?もう、あんまりあたしも悩まない事にしたし」
悩まないように決めないと悩み続けるんだろ、西原は言いたかったが言えなかった。傷つけたあげく、気にかけられてしまい自分が情けなくて仕方ない。むつの目元は、さんざん泣いたからか腫れている。そんな痛々しい状態なのに、他人に気を遣えるむつは、やはり誰よりも優しくて自分を犠牲にする事を厭わない人なんだと、改めて思い知らされた。
「ごめん、ごめんな」
「もういいってば。ま、確かに…ショックだったけどさ。元彼の言う事なんてさ、いちいち気にする必要ないのにねっ」
明るく言ってむつは手を伸ばしてクラッカーをつまんだ。ほんの少しだけかじって、口紅を塗ったあとのように唇を擦り合わせている。