2話
私室に入ったむつだったが、すぐに出てきた。本当に着替えただけのようだ。見覚えのある、もこもこのムールウェアだった。山上が妖である片車輪と共に選んできた、ショートパンツタイプのものだ。それに揃いのアームウォーマーを着けていた。
「…なぁに?」
「それ、この前着てたのだよなと思って」
「そうそう。使ってるの、足寒いけどね」
なら着るなよと言いかけたが、もこもこの服にフードに耳がついているそれは、今の少し弱っているむつにはとても似合っている。
キッチンの方から、ちーんっと音が聞こえると、むつはお盆を手にスリッパを鳴らして行った。小鉢を2つと取り皿を持って戻ってくると、むつはクッションを置いてその上に座った。
「ひじきと筑前煮か…」
むつは頷くと、ビールをあけてグラスに注ぐと西原の前に押しやった。西原はワインを開けて注ぐとむつの前に置いた。自宅で呑むからか、ワイングラスの半分以上にたっぷりと入っている。
「ん、お疲れ」
「お疲れさん」
かちんっとグラスを合わせると、2人は黙って呑んだ。むつはクラッカーをつまみながら、んっと何か思い出したかのように立ち上がった。
「はい、ごめん。忘れてた」
灰皿を置き、むつはクラッカーの残りを口に入れた。もそもそと噛み、くいっとワインを呑んだ。