2話
引っ越しが終わってからのむつの部屋に上がるのは、今日が初めての西原は少し緊張していた。一緒にエレベータに乗っている間、むつはふぁふぁと大きな欠伸をしているだけで、気まずさはなど微塵も感じていないのかもしれない。
「…お邪魔しまーす」
「はーい、どうぞ。あ、鍵閉めといて」
スリッパを出して貰い、西原は言われた通りに鍵を閉めた。玄関には、オレンジ色の暖簾がかけてあり、暖かみが感じられる。むつは、コートを脱いでハンガーにかけると、すぐにキッチンに入った。
「ハンガー使って。呑み直す?そうじゃないなら、お茶いれるけど」
「…どうすっかな。むつは?」
「うーん…ちょっと一緒に呑む?」
「そうしようか。何か手伝う事とか…」
「え?ないない。暖房入れて。あとは適当にゆっくりしててくれたらいいから」
むつは食器棚からグラスと皿を出し、冷蔵庫を開けたりしている。西原はする事もなく、ソファーに座ってテレビをつけた。会話がないというのが、こんなに気まずく思うのは初めてだった。
お盆にグラスとビール、ワインボトルと軽くつまむようなのか、ナッツやクラッカー、生ハムを乗せてやってくると、テーブルに並べた。
「ちょっと着替えてきていい?」
「ん、あぁ…」