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2話
白い息を吐きながら、むつが微笑んでいる。何もなかったかのような対応に、西原はさらに申し訳なく、気まずく感じていた。
「…ほら、風邪引くから早く入れよ」
キーケースを受け取ったむつは、両手でぎゅっと持った。マンションの街灯に照らされているむつの頬も鼻も赤くなっている。
「…上がらないで、帰る?」
「え、いや…だって」
自分の発言で追い詰めたあげく、冬四郎との仲睦まじい姿を目の前で見ていただけに、気まずさは倍増している。だが、むつはそんな素振りは一切ない。
「悩むなら止めた方がいいね。はい、これ」
伏し目がちに、くすっと笑ったむつはコンビニの袋を西原に渡した。中には飲み物と西原が吸う銘柄のタバコが2つ入っている。どういうつもりなのか、部屋に来ないかと言ってくれたあげく、タバコと飲み物の用意もされている。
「先輩?」
「あ…明日、早めに起こしてくれるか?」
「…もちろん」
「コート取ってくるから、ちょっと待っててくれ」
悩んだ末、むつとゆっくり話もしたいし、一緒に居たいという気持ちが気まずさに勝ったのか、西原はコートを取り支払いを済ませた。