2話
タクシーに揺られながら西原は、手にしているキーケースを見ていた。冬四郎がやけに、嫌味な言い方をするからつい勢いで自分が行くと言ったものの。冬四郎の言う通り、顔を合わせるのは気まずい。だが、早めに1度顔を合わせておけばその後が気まずくならなくて済む。冬四郎がそこまで考えて言ってくれたのかは、西原には分からないが冬四郎には感謝していた。
忘年会シーズンとは言えど日付が変われば、人通りも少なくなるのかタクシーも少ないし道はすいている。どんな顔をして会えば良いのか、悩んでいても決まらないうちに、むつの自宅に近付いてきている。西原は携帯を取り出して、むつに電話をかけた。冬四郎から言われた通り、携帯をきにかけておいたのか、むつはすぐに出た。
『はいー?もう着く?』
「あぁ。もう10分くらいあれば着くと思うけど、まだコンビニか?近くのコンビニって…どこだ?」
『んー説明は難しい』
「なら、マンションの前で良いか?」
『うん。ごめん、お願いしまーす』
簡単な通話を終えると、西原はほっとしていた。声は、いつも通りのむつだった。西原は運転手に道を指示し、むつのマンションに向かって貰った。
マンションが見えてくると、すでに人影があった。コンビニの袋を持って、白い息を吐きながら、誰かを待っているような素振りだった。
「あ、あのマンションの前で。少し待ってて貰えますか?」
西原はコートを車内に残したまま、タクシーから降りると、その人影に駆け寄った。
「悪い、待たせたか?」
「ううん。あたしこそ、ごめん…」