2話
「いい。悩むなら、頼んでも仕方ないからな。山上さんに俺も帰るって伝えといてくれ」
苛立ったような冬四郎がキーケースを取ろうとすると、西原は手を引っ込めた。じろっと冬四郎が西原を見ると、西原も負けじと冬四郎を睨んだ。
「…俺が行きます」
「なら、さっさとコート取ってこい。その間にむつに電話して、タクシー拾っといてやる。早くしろ、外でむつを待たせる気か?」
「は、はいっ‼」
低い声で冬四郎に言われ、西原は再び走って店に戻った。ぎゅっと握りしめているキーケースの中で、かちゃかちゃと鍵が鳴っている。がらがらっと勢いよく引き戸を明け、コートを掴んだ西原に山上が目を丸くしている。
「間に合わなかったか?」
「はい…家まで届けに行ってきます」
西原はそれだけ言うと、またすぐに冬四郎の元に引き返した。店と冬四郎は待っている大通りは、大した距離もない。すぐに戻ると、冬四郎は携帯を片手に西原に手を上げて見せた。言った通り、すでにタクシーがドアを開けて待っている。
「あぁ…今、西原君が向かうから。携帯だけは気にしておけよ、連絡つくように…あぁ、ん、じゃあな。むつ、近所のコンビニに行って待ってるってから、後は頼むな」
「はい…あの、すみません」
西原が謝ると冬四郎は首を傾げた。
「いいから、行け」
「あ、はい…すみません。ありがとうございます」
タクシーに乗り込んだ西原は、窓から冬四郎に向けて頭を下げた。冬四郎は、何が何だか分からないといった様子だったが、ひらっと手を振っただけだった。