2話
「あ、あの…むつが鍵を忘れて…」
西原が差し出すと冬四郎は受け取り、中を確かめた。中を見て、すぐにむつのだと分かったのか、冬四郎は溜め息をついた。
「そっか。間に合わなかったのか、ごめんな来て貰ったのに。西原君、悪いけどついでに届けに行ってやってくれるか?むつには、俺から連絡いれるから」
冬四郎がこのまま、むつを追い掛けて行くのだと思っていた西原は、キーケースを渡されて、さらに驚いた。
「…?どうした?」
いつもと変わらない調子の冬四郎は、目を見開いて立ち尽くしている西原を、どう思ったのか、思案顔になった。
「気まずいか?それなら、仕方ないか」
「え、まぁ…じゃなくて、宮前さんが行った方が…むつは喜ぶと思いますよ」
「え、何で?」
別れ際にキスするような仲じゃないですかと、言いそうになった西原だったが、言葉を飲み込んだ。
「…むつとは顔合わせにくいか?それなら、余計に西原君に行って貰いたいけどな。お前がそんなんじゃ、むつが余計に気にするだろ?また泣かせる気か?」
冬四郎の言う通り、むつとは顔を合わせにくい。むつが力を使えなくなった決定打を与えたうえ、冬四郎との事を見てしまえば、それは尚更だった。