1話
「西原さん、あの辺ですか?お地蔵さん」
祐斗がついてこないから立ち止まっていた西原は、また石段を登ってきて祐斗の隣に立った。そして、祐斗が指差している方向に目を向けた。神社に面している大通りを左に行き、神社の裏の方に向かうような細い道があり、少し先には小さな公園がある。祐斗はその公園の辺りを指差している。
「そうそう、よく分かるな。もしかしてこの距離からでもお地蔵さん見えてる?」
「…いえ、ただ、そうかなって」
「ふーん?急ぐ?」
見えたわけじゃないのに分かったという祐斗の言葉から、何か察したのか西原は少し目を細めて、眉間にシワを寄せた。
「そうですね、気持ち急ぎめで」
祐斗が先に石段を下り始めると、西原も後を追うようにして小走りについていった。地蔵がある場所が分かったからか、祐斗は自ら黄色のテープをくぐって走っていく。何か視えたわけではないのに、場所が分かるという事は何かあるに違いない。
妙に嫌な感じがし、心臓がばっくんばっくんと鳴っている。買い物袋を持った人たちの合間を縫うようにして、祐斗は走った。パーカーの青年とスーツ姿の男が走っている姿は、少し人目を引くようで通行人は足を止めて2人を振り返って見たりしている。
細い道に折れる辺りに近付くと、何となくだったが、ぐっと気温が下がった気がした。石段の上から見た通に曲がると、大通りから離れたせいか人通りはない。乗用車1台が、なんとか通れるくらいの道幅はあり、左右には民家もある。目標にしていた公園もすぐ目の前に見えている。
何となく違和感を感じた祐斗は、あっと声をあげ急に立ち止まると、後ろからついてきている西原の腕を掴んだ。
「おっ…っと、何だよ急に」
「来ない方が良かったかもしれません」