12話
ぷりぷりと怒りながら祐斗は、捲し立てるように西原に言った。そして、冬四郎を呼ぶのに、もう1度廊下の方に顔を向けた。ぱたぱたと鳴るスリッパの音は、どう考えても1人分ではない。冬四郎と共に颯介もやって来ているようだった。
あぁと溜め息を吐きながら、西原はむつから離れると頭を抱えた。むつは、西原と祐斗を交互に見やって、少しだけ笑った。
「…おばか」
ぼそっと呟くと、西原が顔を上げた。そんな事は、わざわざ言われなくても分かってると、言いたげな顔だった。だが、その情けない表情を見て、むつは微笑むと、ちらっと祐斗の方を見た。そして、素早く西原に顔を近付けた。
ぐいっと唇に押し付けられた柔らかい物に、西原は驚いたような顔をした。むつは離れながら、軽く唇を擦り合わせて恥ずかしそうに頬を赤くしていた。だが、すぐそこまでスリッパの音が聞こえてくると廊下に顔を向けた。
「お説教、頑張ってね」
ふんっとむつは笑って立ち上がると、廊下に出た。すぐにやってきた冬四郎に抱き付くと、むつは西原指差した。冬四郎は涙に濡れているむつの目を見て、目を細めると西原を睨んだ。
「西原?」
冬四郎の低い声に、西原はびくんっと肩を震わせると、そろそろと布団に潜った。だが、冬四郎はむつを颯介に任せるとずかずかと部屋に入り布団を剥ぎ取った。
颯介と祐斗に慰められながら、冬四郎に怒られている西原を見て、むつはくすくすと笑った。西原も怒られているはずなのに、むつを見ると笑みを浮かべた。
「お前、何だ?人の妹泣かせてんのに、へらへら笑いやがって…あ?」
「あ、いや…そんな…そんなつもりじゃ…」




