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12話
悩むように視線をさ迷わせたむつだったが、どうするのか決めたようで、西原の浴衣をきゅっと握った。その手は、微かに震えている。そして、目を閉じると少し顎を反らした。
「むつ…」
自分が言い出したくせに、むつにこんな風にされると西原は少し狼狽えた。怪我を負わせた事に対して、罪悪感を感じてわがままを受け入れようとしてくれているのか、それとも本当に嫌ではなくなのか。それが分からなかった。
なかなか勇気の出なかった西原だったが、どうあれむつが自分を受け入れようとしてくれている。そっと頬に手を添えて西原は、ゆっくりと顔を近付けた。
無理矢理したキスでも、死ぬ間際に言ったわがままからのキスでもない。それでも、むつがいいと言ってくれるならと西原は甘えるように唇を近付けた。
西原の近付いてくる気配が分かるのか、むつが浴衣を握る手に力を込めた。




