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12話
「だ、だって…あれは、先輩が…」
「でも、2回目は頼んでなくてもしてくれたじゃんか。だからさ、もう1回キス。そしたらすーぐ治ると思うし」
「だってさ。むつ、してやれよ。そしたら、逮捕した女の調書とか任せてこき使えるしな」
「あ、そしたらお兄ちゃん楽?なら…」
「いや、やっぱいい。治るまで側に居てくれ」
「わがままなやつだな」
タバコを吸い終えた冬四郎は、くすっと笑うとよっこらせと立ち上がり、タバコと携帯灰皿を置いて出ていった。襖が閉まって、足音が遠ざかっていくと西原はむつの方を向いた。
「…悪かったな。わがまま言って…あの時は仕方なくしてくれたんだろ?」
溜め息をつくようにして西原が言うと、むつは少し困ったように首を傾げた。瀕死の状態の西原に、最期にキスして欲しいと言われた時、むつは何を思ってキスをしたのか自分でも分からなかったのだ。




