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12話
むつが西原の寝顔を見ていると、すーっと襖が開いて風呂に入ってきたのか、浴衣姿の冬四郎がやってきた。
「まだ起きそうにないか?」
「…うん。しばらくは、起きないんじゃないかな…疲れてると思うし。傷は簡単に治る物じゃないし」
「そうだな」
すとんっとむつの隣に座った冬四郎は、袂から煙草を取り出すと寝ている西原を気遣う事もなく、火をつけて煙を吐き出した。
「もう…先輩居るのに…」
「大丈夫だろ」
「ね、ありがとう。諦めろって言われると思ってたのに、お兄ちゃんも心臓マッサージとかしてくれて…」
「お前が諦めたくないって思ってたんなら、それを止めたくはないからな」
冬四郎は微笑むと、むつの目元を親指で拭った。今は泣いていないはずだったが、いつの間にか涙が溜まってきている。




