2話
「…けど、考えるのはちょっと休憩かな。疲れちゃったし」
「そうだな。明日は祐斗のミスだらけの報告書と請求書直さなきゃならねぇしな」
「…なんでぇー?何でそうなるの?」
「仕事だからだよ」
山上は厨房の方を見て、軽く手を上げるとぬる燗を大徳利で頼んだ。戸井はすぐに用意をして、お猪口を3つと氷が多めに入っている水を持ってきた。
「たまちゃん、何か食べる?」
「ん、後で…今はまだ、いい」
「おっけ。何でも言ってよ」
戸井はむつに新しいおしぼりを渡すと、さっさと厨房に引っ込んだ。山上は徳利から酒を注いで、むつと冬四郎の前に置いた。
「あたし…バイク…」
「置いて帰れ。どのみち、そんな状態で運転なんか危なくてダメだ」
ふぅと溜め息をついたむつだが、ほんのりと口元に笑みが浮かんでいる。ファンデーションはすでに浮いてるし、目は赤くなっているしらマスカラもアイラインも落ちて、涙袋の辺りに黒い物がついている。それでも、少しすっきりしたような表情を浮かべている。
「むつ、ちょっとこっち向きなさい」
「…はぁい、何?」
隣にいる冬四郎が、むつの手からおしぼりを取ると、目の下の滲んだアイラインやマスカラを優しく拭き取った。
「ありがと…そんなに酷かった?」
冬四郎は無言のまま、おしぼりを返した。
「…お兄ちゃん、怒ってる?」
酒を呑もうとしていた冬四郎は手を止めて、むつを見た。ややあってから、タバコに火をつけて、ゆっくり煙を吐き出した。
「お前こそ、どうした?いつも、しろーちゃんって呼ぶくせに。今日は…子供みたいだな」
「…あ、そうかも…何でだろ…嫌?」
「嫌じゃないけど。人前でしろにぃって呼ぶ事少ないからな…甘えてんのか?」
むつはおしぼりを見て、かなぁと首を傾げた。