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12話
ぽつんっと頬に落ちた、水滴に冬四郎は顔を上げた。いつの間にか雲におおわれた空から、むつの涙を隠すかのように、ぽつぽつと雨が降りだした。
「むつ…さ、そろそろ帰ろう。雨が振ってきた…それに、西原君をこのままにしておけない」
冬四郎がそっとむつの頭を撫でながら言うと、むつは鼻をすすって頷いた。涙で、ぐじゃぐじゃになった顔のまま、むつは西原の方を向いた。
「あ…」
ずっと顔を伏せて泣いていたからか、全く気付かなかったが地蔵が4体揃って西原の横に立っていた。その後ろには、颯介と祐斗、狛犬も一緒だった。
今さら地蔵が戻ってきたとて遅い。むつは、ぷいっと地蔵たちから視線を反らした。最初から地蔵が役目を放棄なんてしなければ、西原がこんな目にあう事はなかった。そう文句を言いたかった。だが、それを言った所でどうにかなる事でもない。




