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12話
冬四郎もどうしろとは言えずに、むつを抱き締めて気が済むまで泣かせてやる事しか出来なかった。ずるずると鼻をすすり、咳き込み、むつは涙を流し続けていた。
むつはいつまでも泣き止まず、冬四郎は飽きる事もなくむつを抱き締め、そっと頭を撫でていた。1度は、落ち着いたかと思っても、むつはまたわぁわぁと泣き出した。冬四郎はそんなむつを抱き締めながら、ほんの少しだけ目に涙を浮かべていた。冬四郎にとっても西原は、何だかんだと大切な存在だった。そんな西原とまさかこんな風に別れる時が来るなんて、思ってもみなかったのだ。
2人がどんなに悲しんでいても、西原はぴくりとも動かない。祐斗は、そんな2人を見ながら、1の地蔵を狛犬と一緒に見守っていた。1の地蔵は、あちこちと視線を向けていた。やがて何かを見付けたのか、そっと両手を差し出すようにした。その小さな手の上に、蛍のような光がそっと止まった。




