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12話
西原が力なくもたれたままで居ると、むつは唇を離して冬四郎の方を向いた。
「お兄ちゃんっ‼」
目にはたっぷりの涙が溜まっていて、ぼろっと大粒の水滴が落ちた。冬四郎が駆け寄って、西原の口元に手をあてた。
「………っ」
冬四郎は何も言えずに、むつを見た。むつの目からは、ぼろぼろと涙が落ちている。冬四郎は、ゆるゆると首を振った。
「まだ…っ‼」
むつは西原を寝かせると、顎を反らさせた。そして、胸に手を置いてぐっと押した。ぐっぐっぐっと胸を押して、顎に指を添えて唇を塞ぐとふーっと息を吹き込んだ。胸の辺りが微かに膨らむのを、しっかりと確認していた。そして、またぐっぐっぐっと胸を押した。
疲れきっているはずのむつだが、休む事なく心臓マッサージをして人工呼吸をした。
「…っう、先輩っ…」
人工呼吸をして、唇を離してむつは西原の頬に手を添えた。息を吹き返す事も、目を開ける事もない。




