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12話
地蔵はむつの方を向いて、丁寧に頭を下げた。そして、しゃんしゃんっと錫杖を鳴らして鬼の前に立った。
「…むつ、西原の所に行け。あとは我と地蔵が何とかしてみるからな、任せろ」
狛犬はむつの前に行くと、ごんっと額をぶつけて、ぐりぐりと押し付けた。むつは、のろのろと手を伸ばして狛犬を撫でようとしたが、汚れた手を見て引っ込めた。
「構わんぞ。むつの手が汚れてるとは我は思わないからな」
緑色の体液にまみれた手に、狛犬は頭を押し付けてから、とっとっとと地蔵の方に向かっていった。鬼はすでに、ぐったりとした様子でうなだれていた。
「むつ」
冬四郎に促されると、むつは立ち上がって西原の方に向かっていった。よろよろとした足取りだったが、しっかりと自分の足で立っていた。




