2話
「混ぜたな?」
「…少しだけですよ。谷代君なら何とかなだめて、場の雰囲気を変えられると思ったものですから」
悪びれもせず冬四郎は、自分が呑んでいた日本酒の徳利を持ち上げて振って見せた。
「むつ、あぁなるとどんなに優しい事言われて、なだめられても泣き止まないんですよ。ずっと泣き続けますからね。泣きつかれて寝るのを待つか、酔った祐斗君に笑わせて貰うかしか方法ないですから」
「お前…明日、むつも祐斗もまともに仕事にならない状態になったら、どうするんだよ」
「大丈夫ですよ。2人とも若いし…に、してもむつは…そうか。西原の事、引きずってるんですね」
「あいつら、何で別れたんだ?」
「西原にプロポーズされたそうですよ。で、むつは力の事もあるし断って、別れたと」
「それで、結婚しないとか言ってたのか。子供が自分みたいな力を持ったら、余計な悩みが増えてと可哀想か言ってたな」
「…何だかんだ、ずっと負い目だったんでしょうね。力の事は、それが今回は抑えられなくなっただけで」
「だろうな。西原と解決するのか、自力か…」
「自力でしょ。西原にどうにか出来てるなら…別れてないと思いますよ」
ふんっと鼻で笑った冬四郎は、徳利を逆さまにしているが、もう一滴も残ってはいない。
「…ちなみに、どのくらい入れた?」
「半分くらい、ですかね」
「祐斗、二日酔い決定だな」
冬四郎は口の端を持ち上げて、にやりと笑った。その笑い方は、悪い事を考えてるむつの笑い方とそっくりだった。