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12話
「…むつ、これ以上はダメだ」
どんっと落ちたが大した痛みはなく、後ろから抱き締められるようにしてぎゅうっと腕が回されていた。
「もう止めておけ、な?」
後ろにいる冬四郎が、むつの肩に顔を埋めるようにして言った。子供に言い聞かせるような、優しげな声のようであって頼み込むような悲痛な感じがした。
「西原君の側に居てやってくれよ」
うつ向いていたむつは、西原の名前が出るとゆっくりと顔を上げた。そして、振り向いて冬四郎の方を見た。むつが、身動ぎをすると、冬四郎は顔を上げた。
「…先輩は?」
「まだ息はある」
むつは緑色の体液にまみれた腕を見て、辺りを見回した。すぐ近くには、大きな眼球が転がっていた。そして、その近くには狛犬と錫杖を鳴らして立っている地蔵が居た。
「…玉奥さん、遅くなってすみません。他の地蔵を連れてくる事は出来ませんでした。重ねてご迷惑をおかけしました」




