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11話
気だるげに顔をあげたむつの目は、無機質な物そのものであった。だが、何故か口元には、うっすらと笑みが浮かべられていた。
ぞっとするような薄ら笑いを浮かべているむつは、ブロック塀に手をつき日本刀の柄に足をかけた。そして、弾みをつけてとんっと起き上がって鍔の上に立った。
表情の全く変わらないむつは、手を軽く振り上げると鬼の鼻をぱんっと叩いた。さほど力が入っていたようには思えなかったが、ごきっという音が響いて少し鼻が横に向いた。
「…平手打ちで骨を折ったぞ」
狛犬が、絞り出すような声を出した。
「ヤバくないですか?」
ごくっと喉を鳴らした祐斗は、颯介の方を向いて言った。颯介にもむつの動きは、しっかりと見えていたようで驚愕したような表情を見せていた。




