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11話
むつが諦めたのだと分かり、鬼はにんまりと笑うと、長い舌でべろっと唇を舐めた。血色の悪い身体のわりに赤い舌だった。
「むつさんっ‼」
祐斗が駆け寄ろうとすると冬四郎が後ろから腕を掴んで引き留めた。
「…寄らない方が良い。むつが余裕こいてる時ほど怖い物はないからな」
それでもやはり心配なのか、冬四郎は目を細めるようにしてむつを見ていた。
鬼は大きく口を開けてむつを食らおうとしたが、ぴたっと止まった。顔を近付けようと、ついた肘に力を入れて身体を押しているようだった。
がぁがぁっと声をあげ、開いた口からは涎がぼたぼたと落ちている。鬼の動きが何で止まったのか、祐斗にも冬四郎はもすぐには分からなかった。寝転んでいたむつがあぐらをかいて、座っているのが見えると安心するどころか、少し怯えたような表情を見せた。




