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11話
ずんっと肘をついて、鬼は大きく開けた口をむつに近付けた。手が使えなくなったから、噛み付こうというのだろう。すっとむつが1歩下がると目の前でがちんっと歯を鳴らして、鬼は口を閉じた。
噛みつくにしても、標的は小さいし寸前の所で避けられる。なかなか、上手い事は行かず苛立っている。噛みつくのは、上手くいかないならと、鬼は額を突き出すようにして、顔を振った。
それにはすぐに対応出来なかったむつは、数歩よろめき鬼の体液で濡れた足元と割れたコンクリートに足を取られて転倒した。
横向きに倒れたむつは、立ち上がろうとするもべっとりと身体じゅうに体液をかぶってしまい、滑ってなかなか立てない。
立ち上がるのは諦めたのか、むつは汚れるのも気にせずにごろんと寝転んだ。




