11話
むつは冬四郎の手から離れて、鬼の方に向かっていく。とことこと歩いていただけが、だんだんと早足になり、駆け出していった。
呆然としている冬四郎を引っ張るようにして、颯介は西原の所に戻ってきた。
「に、西原さん!?な…何があったんですか?」
はぁはぁっと短い呼吸をし、仰向けに寝かされている西原に駆け寄った祐斗は、ぐっしょりと血に濡れたむつのコートと西原のシャツを見て、強張った表情をした。
「…大怪我をしたんだ」
狛犬は西原の腹に顔を近付け、ひくひくと鼻を動かした。
「土地神の薬を塗ったのか?」
西原のすぐ横には、ぐしゃっと潰された緑色の包みが落ちている。狛犬は、それと西原を交互に見た。
「…傷口は塞がってきてるけど、内臓までは、どうだろうな。こいつ、もたないかもしれないな」
狛犬の言葉に祐斗は、むつの方を見た。むつは、降り下ろされた鬼の手から指を斬り落とした所だった。ふわっとした動きに力はなく、鬼の攻撃を避ける姿勢のなさには、危なっかしさしかない。
「そ、そんな…むつさんの様子がおかしいのって、西原さんがこんな事になって自棄になってるから?」
「たぶん、そうだろうね」




