2話
わあわあとむつが泣いてるのを横目に、落ち着き払っている颯介と山上は、うんうんと頷きチューハイを呑んでいる。
「なぁ、むつ。力が使えなくなったから辞めたいは認めないからな」
「そうそう。現場に出れなくても仕事はあるよ。特に祐斗君も社長もお財布の紐が緩いから、ちゃんと絞めてくれる人居ないと」
年長組である颯介と山上の意見は、言葉を交わさなくても一致しているようだった。
「ね、むっちゃん?おっさんと子供を抱えた俺を1人にしないでくれるかな?おんぼろ弱小会社なうえに、女の子も居なくなったら、救いようがないよ」
「湯野ちゃん酷いな」
「だって、本当の事ですよ?むっちゃんが居るから大金が転がってきたり、仕事があるんですからね」
「確かになぁ…それに暇な時でもよく存続してたよなぁって思うのも、むつが財布の管理出来てるからだしな」
「ですよねぇ、いつ潰れるのか、今月給料あるのかってよく、はらはらしますもん」
あははは、と颯介と山上が楽しげに笑っている。よくそんな、かつかつの状態で笑えるよな、と祐斗は思っていたがそれもこれも、むつのやりくりと人脈、実績があってこそ賄えてるんだなと感じた。それを染々と思わせられると、よろず屋にむつが居なくなると、どうなるか不安でしかない。だが、颯介も山上もむつが辞めたいのなら、それを引き止める気はないようにも感じられた。役に立たないからという理由では、辞めさせない。そういう事だった。