1話
「折角、来て貰ったのに収穫なしか」
「すみません…」
「いや、祐斗君が謝る事じゃないよ。それに居ないなら、行く所があったって事だろ?その方が霊にとっても良いだろ」
成仏出来ずにさ迷っているのが良い事だとは思えないが、それでも自分の意思で行く所を決められていたのなら、それは本人にとっては良い事なのかもしれない。
「…さて、祐斗君から見て気になる事がないなら、事務所まで送っていくよ。寒いのに付き合わせて悪かったね」
「いえ、それは全然…あ、1ついいですか?お地蔵さんも見たいんですが。壊されたって言う」
「あぁ、良いよ。駐車場に戻りながら寄ろうか。けど、見ても何もないぞ?壊された地蔵なんか」
「まぁ、そうかもしれませんけど…」
「…何か指示でもあったか?」
「はい。事件と前後して起きてる事はら見ておいた方が良いって言われてますから。お地蔵さんっていうのも、むつさんは気にしてるみたいですし」
「仕事熱心だな」
西原はうんうんと頷くと、祐斗と一緒に下に向かい始めた。石段はそれほど長いわけではないが、やはり1番上まで登ってみると町並みが少し見下ろせる。祐斗は、ふいに立ち止まり景色を見下ろした。
大通りを奥に入れば民家が密集しており、細々とした道がある。何屋さんなのか分からない店が、店先に看板や商品を積み上げている。祐斗はそれらを見ながら、視線を動かしていく。何か気になるものが、あったわけではない。ただ見回しただけだった。だが、祐斗の視線は一点で止まっている。