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11話
疲れを感じているはずなのに、むつはふっと笑った。鬼が指を弾いたタイミングでとんっと腕を蹴って反対の手に移ると、そこから猛然と駆け上がった。
肘を過ぎて、二の腕に到達するとむつはまたとんっと飛んだ。身のこなしの軽やかさと疲れを感じさせない動きは、常人的ではない。下から見ているしかない颯介と冬四郎は、眉間にシワを寄せていた。
二の腕から飛んだむつは胸に日本刀を突き立て、自分の体重を利用するようにしてみちみちと分厚すぎる胸に傷を作ったが、鬼にとっては数センチの引っ掻き傷程度でしかないだろう。
日本刀を引き抜いて、左手でざくざくと日本刀を突き立て、右手で身体を持ち上げながら、むつはするすると登っていく。胸の上を登られると、感触はあっても姿が見えにくいようで、埃を払うようにして鬼はぱたぱたと身体を叩いた。




