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11話
左手で、剣先を後ろに向けるようにして持ち直したむつは、ふらっと1歩を踏み出すとたったったっと軽やかに走り出した。足場が悪いからなのか、ダッシュするような体力が残っていないのかは分からないが、ジョギングするかのような軽い足取りだった。だが、鬼との距離が縮まると、だんっと強く踏み込んだ。
膝をついている状態の鬼は、むつが元気に動き回るのが面白いのか、それとも勝ち目など無さそうなのに向かってくるのが無様に見えたのか、にやりと笑って蝿を叩くかのように、手のひらをむつに向けて振り下ろした。
びたんっと地面についた手を避けて、むつは指の上に飛び乗ると、そのまま腕を登っていく。急な斜面を走っているようで、いささかスピードは出ないが、危なげなく登っていく。
ごつごつとした岩場をのぼっているような気分で、むつははあっと息をついた。皮膚とは言えど、ざらついていて滑りはしなかった。




