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11話
転がっていった携帯の先に、緑色の包みも置いてた。気付いたむつは何だろうと、どうでも良い事だと思いながらも考えていた。
「…あっ」
身を乗り出して、緑色の包みを掴むとむつは急いで西原の所に戻った。冬四郎がむつの変わりに止血をしていた。コートで押さえているというのに、その手は赤くなっていた。
「…ダメだな」
冬四郎がむつにだけ聞こえるように呟くと、むつは冬四郎の手を払いのけた。横に線が入るようにして避けているジャケットをどけて、シャツをびっと破いたむつは、とろとろと血の溢れている傷口を見た。
むつが何をするつもりなのかと、冬四郎は口出しをする事もなく黙って見ている。西原はまだ微かに呼吸をしているが、いつ止まってもおかしくはない状況だった。
「先輩…」
呟いたむつは握り締めていた緑色の包みを開いて、中からたっぷりの軟膏をすくって西原の傷口に落とした。血と混じって緩くなった軟膏を伸ばして、またすくって落とした。




