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11話
鬼が指を弾くように動かすと、ずるっと爪が抜けて西原がよろよろっと後ろに下がった。むつはすぐに立ち上がると、倒れそうになった西原を受け止めようとしたが、受け止めきれずに一緒に倒れた。ごんっと頭を打ち、上着のポケットから携帯や札なんかが出て散らばった。
「…っ‼せ、先輩?」
じわっとむつの手も太もも辺りも、生暖かい液体に濡れてきていた。むつはべっとりと赤黒く濡れた手を見て、呆然としていた。浅く小刻みな呼吸をする西原は、目を閉じて腹に手を当てている。
鬼は血にまみれた爪を口に入れて、しゃぶっている。にたにたと笑みを見せて、何やら嬉しそうだった。そんな鬼と呼吸が弱くなっていく西原を交互にみやって、むつは何が起きているのかようやく理解したのだろう。
「先輩っ‼先輩ってば!!」
ばさばさと上着を脱いで丸めると、むつは西原の腹に押し当てるようにした。




