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11話
「やばいな…」
西原が呟くと、むつは頷いた。電柱の影から出て左右のどちらに行ったとしても、この距離では鬼に捕まってしまう。
黄色っぽく濁った目にじっと見つめられ、むつはぞぞっと鳥肌を立たせて西原のジャケットをぎゅっと掴んだ。逃げ切れないのは分かっているのか、西原はむつの背中に手を回した。
鬼が顔を近付けて、ぐぱっと口を開けると、はぁぁと息を吐いた。ドブのような腐ったような臭いがして、むつはうっと顔をしかめた。腐臭が辺りに立ち込めると、むつも西原も酸欠になったようにくらくらとしてきていた。
「本当にやばいな…」
臭いをもろに吸い込んでしまったのか、むつがごほごほとむせている。
「最悪…」
ジャケットの袖で口元を覆っている西原は、むつがこの臭いを吸い込まないようにと、きつく抱き締めた。




