654/753
11話
「…どけて、手をどけろってばっ‼」
むつは再度、鬼の指を掴んで持ち上げようとしながら、上を向いて叫んだ。西原が下敷きにされているなら、早くこの手をどけさせて助け出さなくては手遅れになる。焦るむつの気持ちを知ってもか、鬼は手をどけたりはしなかった。
じゃんっと錫杖をや鳴らしながら、近付いてきた地蔵は、そっとむつの手に触れた。
「玉奥さん、かばって下さった方なら無事ですよ。ご安心ください」
泣きそうになっていたむつだったが、地蔵の静かな声に、瞬きを繰り返すばかりで何も言えなかった。
「あちらに」
錫杖が向けられた先には、西原を抱き抱えるようにして冬四郎が倒れていた。
「鬼の事はお任せしますよ」
「あ、はい…」
「なるべく急ぎますから、お気をつけて」
地蔵は落ち着いた様子でそう言い、じゃんじゃんっと錫杖を鳴らしながらの駆け出して行った。




