2話
「この前さ…」
唐突にむつが話始めた。だが、集まっている皆からの視線を避けたいのか、うつ向いている。後ろで、縛っているだけの髪の毛が、肩から流れて川のように太股の上に落ちている。
「拐われたでしょ?日本刀を狙ってきた人達が居て…あの時、最後、しろにぃと先輩は見てたよね?あの場所をあたしが焼き尽くしたのを。炎の中でね、あの人達の最期を、死んでいくのをね、あたしずっと見てたの。目の前で」
冬四郎から隠れ家だった場所をむつが焼き尽くした事は聞いていた、颯介、祐斗、山上だったか、なかなか炎の中から出てこなかったむつが、何をしていたのかまでは知らない。それは、冬四郎も西原もだった。
「すでに、亡くなってる人も居た。でも息のある人も居たの…でも、あたしは何もせずに見てた」
そこまで話すと、むつは烏龍茶で喉を潤した。
「救急車呼べば助かったのかもしれない。でもね、しなかった。死なせて欲しいって言われたから…だから、最後の1人が亡くなるまで、あそこに居たの」
思い出すのはツラいはずの事であるのに、むつの表情は変わらない。悲しげではあるが、どこか他人事のような、そんな感じがしていた。
「あの人達はさ、社会的にはすでに死亡届けが出されてて、生きている人ではなかったの。それに…人とは違う能力。大多数の人とは異なる物を持っていたから、孤独だったんだよね。死んだ事になっていても、それでも自分の居場所となる所に行けるなら、そう思ったから、みんな皮膚を剥がして、鼻を削って、頬を削って…同じ顔をして、共同体として寄り添ってた」
残っていた烏龍茶を飲み干したむつは、ふぅと息をついた。話が途切れたからか、そっとやってきた戸井が、烏龍茶のおかわりを置いてすぐに立ち去った。