607/753
10話
みずみずしい蜜柑の果汁と甘い香りが、口いっぱいに広がった。
「あ、美味しい…」
「でしょ?そこの商店街で、そっちの狛犬さんが買ってきてくれたんだよ」
地蔵が少年の方を向いて言い、にっこりと笑みを浮かべた。祐斗は、うんうんと頷きながら、また一房口に入れた。そして、隣に座っている狛犬の口の前にも持っていってやった。少し嫌がるように、身を引いた狛犬だったが、ぱくっと食べた。大きな口に一房だけでは、味が分からないかと思ったが、ぱたぱたと小さく尻尾が揺れている事に気付いた祐斗は、笑みを浮かべた。
「蜜柑も美味しいけど、こっちの菓子も美味しいよね。君たちが、土地神様にって持って来たんだってね」
地蔵は器に盛られた菓子を取り、フィルムを剥がしてかりっと音を立てて食べている。
「あ、はい。そうなんです。うちの玉奥が選んできたんです…仕事をする上でご協力を願いたいからって」




